それでは、店舗向けアプリには、どんな効果が期待できるのだろうか。〈GMOアップカプセル〉を使って、店舗向けアプリを導入・運用している企業の事例にもとづいて、5つの数字を紹介したい。第1は「2割増し」だ。ある店では、来店客数が「2割増し」になった。アプリには来店促進効果が期待でき、アプリでキャンペーンなどの情報を配信したり、アプリで提供できるスタンプカードなどのツールを使うことによって、来店客ひいてはリピート客が獲得できる。第2は「10倍」だ。ある店では、クーポンの利用数が「10倍」に増えた。従来は新聞の折り込みチラシでクーポンを配布していたが、紙のクーポンを切り取って、持参しなければならないので、使い勝手が悪かった。チラシのクーポンをアプリによる配信に替えることで、クーポンの利用数が「10倍」になった。

第3は「20倍」だ。ある店では、いわゆる開封率が「20倍」になった。以前は利用客にメールマガジンで情報を配信していたが、メールの開封率が上がらなかった。いまやメッセージのやりとりはLINEなどのアプリを使うのが主流。メールマガジンをアプリに切り替えることで、情報が目にとまるようになり、開封率がメールマガジンの「20倍」になったのだ。第4は「70%」だ。アプリを導入する場合、ダウンロードしてくれた利用客に対して、割引などのサービスを提供するのが一般的だ。ある店では、そうしたキャンペーンの効果で、アプリをダウンロードした利用客の「70%」が実際に来店してくれた。最後は「1万件」。これは、20店舗くらいの規模のチェーン店さんの例だが、アプリ導入後、アプリのダウンロード数が2週間で1万件になった。もちろん、割引などのキャンペーンをした結果だが、2週間で「1万件」というのは、利用客のアプリへの関心、期待感が非常に高かったことを示している。

なぜ、これほど顕著な効果があがるのか。背景には、時代の変化があると、谷内氏は説明する。ここ5年ほどの間に、インターネットへのアクセス手段はPCからスマートフォンに、さらにブラウザからアプリに移行している。いまやスマートフォンによるインターネットアクセスは全体の70%となり、アプリによるインターネットアクセスは全体の80%に達している。かつてはブラウザ上でGoogleややYahoo!のようなツールでウェブサイトを検索し、気に入ったサイトをブックマークするという導線が一般的だった。ところが現在は、特に若年層を中心にして、ブラウザを使わず、ツィッターやインスタグラムといったアプリによって情報を検索する人が圧倒的に多い。こうしたユーザーの動向に合わせて、アプリの側でも、利用者の使い勝手とメリットを十分に考慮した施策が必要だ。

GMO TECHの谷内亮介氏
GMO TECHの谷内亮介氏

谷内 クーポン、スタンプカード、プッシュ通知といった仕組みを活用して、成果をあげている事例をいくつか紹介したい。23区内に2店舗を展開する美容・リラクゼーション分野の店舗では、従来のメールマガジンによる集客に替えて、アプリを導入した。その際、視覚に訴える「ギャラリー機能」を使って、調髪後、美容施術後の仕上がりをアルバム的に見せていき、利用客の利便性を上げた。さらに、アンケート機能によって利用客に誕生月を答えてもらい、その誕生月にバースデークーポンを配布して、利用料を大きく割り引いた。こうした施策によって、予約が月あたり数十人も増えた。1日に数件ずつの予約増を獲得したのだ。また、プッシュ通知の効果で開封率も大きく向上した。

次は栃木県那須塩原市の魚介料理、海鮮料理のレストランの例だ。那須塩原市は観光地というよりも住宅地で、古くから営業する老舗レストランがたくさんある。その中で、どういう差別化をしていくかを考えて、この店では、グルメサイトにキャンペーンなどの情報を出すのを一切やめて、導入したアプリの中だけで、情報を配信する戦略をとった。何周年記念のイベントや夏の特別メニュー、割引サービスといった情報をアプリの中だけで流したのだ。お得な情報を知りたければ、アプリをダウンロードしてくださいという導線を作り、その上で、リピーターの満足度を高めるためのプレゼント施策などを効果的に行って、店のファンを増やしていった。アプリ導入当初は1店舗だった店は現在、3店舗になっている。

最後は、アミューズメント系のチェーン店の事例だ。この店では、インターネットカフェの個室にアプリのPOPを置いて、ダウンロードを促進。ダウンロードしてくれた利用客には割引などの特典も用意した。さらに、アプリの中にあるスタンプカードの機能を使って、割引の特典を提供しているが、スタンプカードが1枚埋まるごとに、割引率がアップしていく。1枚なら10%オフ、2枚なら20%オフという具合で、割引率がアップするので、リピーターの満足度が高まっている。

このように、店舗向けアプリは情報が利用客の手元に「確実」に「迅速」に届くツールだ。また、アプリをダウンロードした利用客はお店のファンもしくはファン予備軍なので、手厚い施策が必須となる。さらに、アプリは実施した販促、集客の施策の効果がはっきり目に見えるツールでもある。もう1つ付け加えれば、われわれのようなサービスが増えてきたおかげで、アプリ開発のコストダウンが実現し、維持コストも目に見えて下がった。いまやアプリを使った販促、集客は、かつてのように大手の専売特許ではなく、個店や中小のチェーン店にとっても、有力な選択肢の1つになったと言えるだろう。

■売上向上を実現する「ユビレジ」とは?~現場の「不必要な業務」を省力化し「もう1品」のための接客を可能に

タブレット端末のiPadが販売開始された2010年に、世界初のiPadPOSレジ〈ユビレジ〉を開発・提供したのが、当時はまだ設立2年目のベンチャー企業だったユビレジ(東京・原宿)だ。約7年後の現在、〈ユビレジ〉は飲食業、小売業、サービス業など約2万5000店舗に導入されている。社長の木戸啓太氏は、慶応大学の学生時代に体験したバーテンダーの業務から〈ユビレジ〉の事業化を思い立ったという。

木戸 バーテンダーのアルバイトでは、紙の伝票と電卓で売上を集計、ファックスで送るというアナログなオペレーションをしていた。一方、大学(理工学部)の勉強では、コンピュータを使った統計解析とか、いま話題の機械学習のような研究をしていた。ものすごくギャップがある。そのギャップを埋めて、サービス産業の現場の生産性を上げるためのツールを作って提供するのが、自分のやるべき事業ではないかと思った。POSレジの開発に取り組んだのは、サービス業の店舗では、売上管理が一番重要な業務だと感じていたから。日本には250万くらいの店舗があるが、いろいろな資料を見ると、POSレジは全体の15%くらいの店舗にしか普及していない。販促の施策を実施したり、顧客管理をしても、POSレジがないと売上分析や商品(メニュー)の単品管理ができないので、成果を判断することができない。だからこそ、従来にないPOSレジの開発が必要だと思った。

POSレジの普及が遅れている大きな原因がコスト。従来型のPOSレジはレジ本体とハンディターミナル(注文端末)、プリンターなどのハード機器を5年リースで導入すると1店舗あたり5年で300万円前後のコストを見込む必要がある。個人店にはハードルが高い。その点、iPadをPOSレジのハードに、iPhoneもしくはiPadやiPodtouchをハンディのハードに使う〈ユビレジ〉では、1店舗あたり5年で3分の1以下のコストでの導入・運用が可能だ。さらに、翌日にならないと会計データが集計、確認できない従来型のPOSレジシステムに対して、〈ユビレジ〉はサーバーでPOSデータを管理するクラウド型サービスであるため、いつでもリアルタイムで会計データを集計、確認できる。これによって、店舗のスーパーバイザーや店長が外出先のどこからでも会計データを集計、確認したり、ABC分析を実施したりして、店舗管理をスピードアップできるのも大きな強みだ。

ユビレジ社長の木戸啓太氏
ユビレジ社長の木戸啓太氏

木戸 いまはクラウド型のPOSレジも一般的になってきたが、先行して〈ユビレジ〉を開発・提供してきたわれわわれの最大の強みは、店舗ユーザーの声を徹底して取り入れる開発体制を築き、アップデートを繰り返してきたことだと考えている。これまでの7年間では、平均して月に1回以上は〈ユビレジ〉をアップデートしている。さらに直近の1年間では25回(月に2回以上)もアップデートした。売上管理、データ管理のレベルアップのために、もう1つ重視しているのは、ほかの業務システムとの連携だ。カード決済や予約管理、顧客管理、さらに最近普及してきているクラウド会計システムなどと積極的に連携し、売上管理、顧客管理から財務諸表作りにいたるまでの手順を自動化できる仕組みを作っている。

さらに、大手チェーン店でも個人店でも使えるところも〈ユビレジ〉の強み。従来型の3分の1程度の低コストで導入できるので、1店舗でも手軽に売上分析に取り組める。将来的に店舗が増えて、100店舗になって、もっと高度なマーケティングに使いたいときにも、システム連携を活用しながら十分、有効に使えるはずだ。例えば〈ユビレジ for Salesforce〉という機能拡張サービスを使えば、世界的に有名なCRMサービスのセールスフォース・ドットコムが提供する業務系の広範なアプリが比較的低価格で使える。

19年10月1日には消費税が増税される見込みだが、同時に軽減税率という制度がスタートする。この制度がスタートすると、多くの店舗では、軽減税率(8%)の適用される商品と適用されない(10%に増税)商品が混在することになり、複数税率に対応したPOSレジが必要になる。〈ユビレジ〉は複数税率に対応できるので、16年4月に「軽減税率対策補助金制度」の対象サービスに認定された。導入費用の最大3分の2を補助金でまかなえるので、従来型のPOSレジシステムからの転換や、新たにPOSレジを考えている店舗にはチャンスだと思う。

最後に、木戸氏はいくつかの事例を紹介した。愛知県にある「ソウルカルビ本店」では、〈ユビレジ〉導入後に客単価が1000円もアップしたという。不必要な業務が短縮され、接客に使える時間が増えたことが大きな要因だ。

木戸 「不必要な業務」とは「注文内容を伝票に書く」「その伝票を厨房に持って行く」「お会計時に注文内容を手で入力する」「領収書を書く」といった業務。〈ユビレジ〉を使えば、こうした「不必要な業務」が連携オーダーエントリーサービス〈FlickOrder〉を使って、スタッフが手元のiPhoneから手早く実行できる。さらに、〈FlickOrder〉ではiPhone上で店舗内の席状況、注文状況をスタッフ間で全部、共有できる。店舗スタッフが、店内の状況をデバイス上で管理できるので、仕事に余裕が生まれる。追加注文したいお客様に気を配れるようになり、あと1品の追加注文が増えていく。また、これはPOSレジの持つ大きな付加価値だが、「ソウルカルビ本店」では蓄積したデータに基づいて、メニューの改善を行った。「時間帯別注文内容分析」「客層分析」から一定の仮説を立て、新メニューを投入した後で「ABC分析(理想と現実の比較)」を行い、仮説が正しかったかどうかを検証して、さらにメニュー開発を繰り返した。こうして、1000円の客単価アップが実現したのだ。

通常は、あまり意識することのない「教えるコスト」の削減という導入効果が明らかになったのは、「KICHIRI」「いしがまやハンバーグ」など全国に100店舗近いチェーン店を展開する外食大手チェーン、きちり(東京・渋谷/大阪・堺筋本町)のケースだった。

木戸 きちりでは従来、POSレジの操作方法を店舗の責任者が店舗スタッフ、アルバイトに何日もかけて教えていた。ところが、POSレジシステムを〈ユビレジ〉に切り替えると、若いスタッフはもともとスマホやタブレットに親しんでいるので、初日からすいすい使いこなしてしまうそうで、教えるコストがものすごく下がったのを実感したと言っていただいている。また利用客も、iPhone、iPadを店舗内でスタッフが使っていると不思議に思って話しかけてくるそうで、コミュニケーションの機会発生にも貢献している。さらに、各店舗の売上状況がリアルタイムで分かるようになったことで、少し余裕のある店舗から忙しい店舗にスタッフを一時的に動かしたり、忙しくて席が取れない店舗から別の店舗に利用客を誘導したりといった柔軟な運用が可能になった。

本社のスタッフ部門の担当者から感謝されるのは、「出張中でもメニューの更新作業ができるようになった」こと。従来のシステムだと、本社のサーバーや特定のブラウザからしか、メニュー更新などの重要な対応はできなかったが、〈ユビレジ〉導入で、移動中でもノートパソコンやiPadから手軽にできるようになることで、人件費や交通費等のコスト削減、企業の生産性向上に大きく貢献している。