外食店舗のクラウドファンディング利用は
日本独特の形で発展、浸透し
強力な集客・プロモーション手法になった。

2017年は「クラウドファンディング元年」とも言われる。インターネットを通じて、不特定多数の人々から比較的少額の資金を調達するクラウドファンディングの市場規模は、日本でも17年末までに1000億円を突破すると予想されている。こうした追い風が吹く中で、外食企業(店舗)によるクラウドファンディング利用がこのところ急増中だ。起業や店舗改装などを目的とした資金調達に役立つばかりではなく、低コストで実施できる強力な集客・プロモーション手法としても注目されているからだ。日本のクラウドファンディング・サイトの中で、外食企業(店舗)によるプロジェクト(サイトに掲載する資金調達ための募集コンテンツ)数からみて、最大級の実績を誇るのが、サイバーエージェントの子会社マクアケが運営する〈Makuake〉である。どんな外食企業(店舗)が、どんな形でクラウドファンディングを活用しているのか? クラウドファンディングで資金を調達し、同時に集客・プロモーションにも成功するには、どんな条件が必要なのか? マクアケ取締役で、海外のクラウドファンディングの動向にも通じる坊垣佳奈氏に聞いた。

マクアケ取締役の坊垣佳奈氏

〈Makuake〉のサービス開始は?

坊垣 2013年8月からだ。日本で最初にクラウドファンディングのサービスが立ち上がったのは2011年なので、当社は比較的、後発のサービス提供企業だと言える。〈CAMPFIRE(キャンプファイヤー)〉、〈Readyfor(レディーフォー)〉といった先発のサイトは、東日本大震災の直後に立ち上がったという背景もあって、社会貢献のための寄付金募集や個人の活動支援といった性格のプロジェクトが比較的多い。一方、欧米のクラウドファンディングは(今年9月に日本でもサービス開始した)〈Kickstarter(キックスターター)〉のように、映画、音楽などのクリエイターを支援するプロジェクトが多いのが特徴だ。

これらに比べて、私たち〈Makuake〉は、サービス開始の当初から、クラウドファンディングの仕組みを産業活性、産業支援に使いたいと考えてきた。クラウドファンディングのプロジェクトが、新しいモノ作りやビジネスが生まれる契機になることを目指して始めたサイトであり、〈Makuake〉(=幕開け)というネーミングにも、そうした産業活動の始まりを応援するという思いが込められている。

一般的に、クラウドファンディングというと、ある目的のために不特定多数の人からお金を投資してもらい、目的が達成できた時点で、一定の利子を付けて返すというイメージが強いと思うが。

坊垣 そういうタイプも多い。お金を投資した人に、お金で返す形のクラウドファンディングは「投資型」「貸付型」と呼ばれている。私たちが提供しているクラウドファンディングは「購入型」で、お金を投じた人が、お金ではなくモノや体験、権利などの形でリターンを得られる仕組みのことをいう。

モノ作りの場合だと、実際にできあがった新しい、ほかでは買えない製品が支援者の手に入る。外食企業(店舗)の場合だと、支援者は店舗オープンのパーティに無料で招待されたり、食事券や会員制会員の権利が得られたりする。例えば、新しい店をオープンする前に、割安の食事券や優先的に予約が取れる権利などの魅力的なリターンを設定して支援を募ると、オープン後の運営資金が集まるだけではなく、オープンと同時にその店に強い関心を持つ利用客も集まるので、リピート確率の高い顧客獲得につながる。さらに、プロジェクト自体が個性的ならば、SNSなどを通じて情報は拡散され、メディアの取材が入るなどプロモーションにも役立つので、いわば一石三鳥のメリットが期待できる。

もしも、調達額が目標に達しなかったら、どうなるのか。

坊垣 「購入型」のクラウドファンディングには2つの方式のプロジェクトがある。1つは「オールオアナッシング」型で、調達額が目標に達しなかった場合は、クレジット課金は解消され、いったん振込などで送金されたお金は全額、投資者に返金される。もう1つは「オールイン」型で、調達額が目標に達しなかった場合でも、プロジェクト実行者は集まった金額を獲得できる。ただし、募集の際に約束したリターンの義務はすべて果たさなければならない。

〈Makuake〉のプロジェクトはモノ作りが中心

私たちプラットフォーム運営企業は、プロジェクト実行者が支援者から得た金額に対して、一定の料率の手数料を差し引いて、実行者に支払う。〈Makuake〉が差し引く金額は20%(マクアケの手数料15%+決済手数料5%)で、そのほかのサイト掲載費用などは一切かからない。「オールオアナッシング」型で、プロジェクトが目標金額に達しなかった場合は、実行者の収入はゼロなので、私たちの手数料もゼロとなる。一方、「オールイン」型の場合、目標金額に達しなくても実行者は支払いを受けられるが、リターンの義務をすべて果たさなければならないし、私たちプラットフォーム運営企業には手数料を支払わなくてはならない。

〈Makuake〉のサービス開始当初は「オールオアナッシング」型が主流だったが、最近では全体の8割以上が「オールイン」型になってきた。資金調達が第一の目的ではなく、新製品のテストマーケティングに使ったり、新店舗の集客・プロモーションを主目的にしてその費用を補填するためにクラウドファンディングを活用するケースが増えてきたからだ。外食店舗の場合、1000万円を超えるプロジェクトはまだ稀で、クラウドファンディングだけで開業資金を全部集めるのは難しい。顧客獲得とプロモーションを兼ねて、リターンに見合った無理のない金額のお金を集めるという考え方で、余裕を持ってクラウドファンディングを活用するのが成功のコツだと思う。

これまでのプロジェクト掲載実績は?

坊垣 現在までの約4年間で、累計で3000件以上のプロジェクト掲載実績がある。実績の推移で見ると、16年に映画「この世界の片隅に」のプロジェクトが成功して同年11月に公開され、ヒットしたことが大きな節目になったと言える。〈Makuake〉では16年秋頃からプロジェクトの件数・金額ともに急増している。現在、外食企業(店舗)によるプロジェクトは全体の10%程度で推移し、当社のプロジェクトの柱の1つになっている。

外食企業(店舗)によるプロジェクト掲載は、サービス開始当初から目標にしていたのか。

坊垣 実は、ほとんど考えていなかった。外食店舗がクラウドファンディングを使って支援を募り、同時に集客するという例は海外にもほとんどなかったと思う。外食店舗のプロジェクトは、たぶん日本独特のクラウドファンディング活用法であり、14年夏に「Roast Horse(ローストホース)」というお店のプロジェクトが〈Makuake〉で公開されるまでは、日本国内でも類例がなかったのではないか。

「Roast Horse」のプロジェクト

「Roast Horse」は、知人の紹介で当社にプロジェクト掲載を申し込んできた。外食店舗の利用はそれまで例がなかったが、店は物件の手配もほぼ終わり、間違いなくオープンできるというので、チャレンジしてみようということになった。結果として、支援者とその知人しか入店できない「完全会員制の馬肉専門店」という業態がたいへん大きな話題になり、馬肉を最良の状態で焼く石窯を設置する費用として募集した324万円の目標金額に対して、600万円以上がわずか1週間ほどで集まった。リターンは会員カードと開店後1年間は飲食代が定額になる特典で、開店後も約500人の会員以外には住所、電話番号非公開で営業したため、「行きたくても行けない店」として多くのメディアに取り上げられる有名店になった。16年には、第2弾として200名の新規会員を追加募集したが、プロジェクト公開後、わずか5分間で会員権が売り切れた。

それだけ短期間に売り切れたのは、プロジェクト公開前に情報が出回っていたということなのか?

坊垣 「Roast Horse」の店長が常連には一部情報を話していた。第1回のプロジェクトの成功で「Roast Horse」はIT業界でたいへん有名になっていた上に、芸能人も多数来店する店になっていたので、第2回の会員募集プロジェクトの公開を待ち構えていた人がずいぶんいたのだろう。こうした「Roast Horse」の成功がきっかけで、外食企業(店舗)によるプロジェクトが徐々に増え、全体の10%を占めるようになった。17年は、14年の25倍の件数の外食店舗プロジェクトが公開されている。また17年には、外食企業(店舗)の分野では画期的な1000万円超えのプロジェクトも3件、出現した。中でも金額が2500万円を突破し、国内の外食企業(店舗)ジャンルでの最高額を記録したのが、テラリウム(室内庭園)付きの銀座の会員制隠れ家レストラン「庭~ Garden of four seasons」だ。

プロジェクト掲載を希望する場合、何をすればいいのか。

坊垣 当社にエントリーシートを提出していただき、当社の審査を受けていただく。審査の基準は何より信頼性だ。プロジェクトでお金を集めながら、お店の開店計画が頓挫したり、リターンの義務を果たせなかったりすると困るので、店舗の物件契約書なども確認させていただいている。現在、審査対象になるプロジェクトは月に500件ほど集まっているが、約半数は実際にプロジェクトとして公開される。ただし、公開までの「プロジェクト実施準備」には最低でも3週間は必要で、場合によってはそれ以上の長い時間がかかるケースもある。プロジェクトが審査を通過したら、次に当社の入稿画面(ウェブ制作フォーマット)から、マニュアルに従って写真、文などのコンテンツを入稿・登録し、プロジェクト用のウェブページを作っていただく。当社に15人前後いるキュレーター(プロジェクト企画担当者)がその入稿コンテンツをチェックして、修正等のやりとりを何度か行い、ページが確定したら、その2営業日後にプロジェクトは公開可能になる。

どういう修正が多いのか。

坊垣 入稿ページの写真や文などの素材に、必要ならばダメ出しをして、出し直してもらったりする。当社のキュレーターは、1プロジェクトに1人が専任で担当し、細かいところまで相当にこだわって、コンテンツのレベル向上のためのコンサルティングを行っている。写真のレベルが低ければ撮り直してもらうし、フォントや写真の使い方がスタイリッシュでなければ、デザイン的に修正してもらう。必要に応じて、カメラマンや画像加工の専門家のご紹介もする。

外食企業(店舗)のプロジェクト成功のコツは何か? 逆に言うと、失敗するプロジェクトの特徴とは?

坊垣 先にも触れたように、無理がなく、しかも支援者にとって魅力的なリターン設計が基本になると思う。オリジナリティの高い、人目を引く企画(業態やメニュー)を工夫するのも大事だ。サイトの表現の面から見ると、ページの作りが甘ければ成功は難しい。サイトにアクセスしてきたユーザーが、設定された支援コースを選び、お金を出してもいいと思うだけの、しっかりしたページ作りができているかどうかだ。メニューの写真を見てもおいしそうだと感じられないようでは論外だし、支援コースの内容、条件を説得力がある写真や文章、デザインでアピールしないと、お金は集まりにくい。