辻本 一般の飲食店が希望するのは、駅近で路面の物件ですね。私たちはそういう1等立地ではない、2・5等くらいの立地をあえてさがし、選んで借りています。駅から少し離れた、裏路地に面したビルの3階、4階などです。おかげで、普通に飲食店を開業する場合の半分くらいの家賃で、物件を借りることができています。また、料理は持ち込み自由(持ち込み費用なし)という、これまでの飲食業界ではあり得ないようなシステムにしました。日本酒飲み放題の料金は1人3000円(税別)の定額です。料理を出して、お酒をたくさん飲んでもらって、そこから売上をあげるというのが一般的な飲食店の営業方針だと思いますが、私たちには、飲食店経営の経験がなかったので、そういう発想がそもそもなかった。料理はしないので、店はキッチンレスで、当初、肴として出すのは何種類かの缶詰だけでした。スタート時は椅子もなく、立ち飲みだけの店でした。店内の設備は、日本酒を入れる冷蔵庫と立ち飲み用のテーブルくらいで済むため、初期投資は徹底して抑えることができました。

2.5等の悪立地、空中立地への集客のために、戦略的に活用したのがクラウドファンディング(インターネット経由の資金調達サービス)だった。「KURAND SAKE MARKET」の第1号店である池袋店が開店したのは15年3月だが、それに先だって〈Makuake〉に、「自由に気軽にたくさんの日本酒を飲み比べよう!池袋に日本酒飲み放題店舗オープン!」というプロジェクト(下)を掲載した。〈Makuake〉はサイバーエージェントのグループ会社が運営し、無料で各種プロジェクトを掲載して、一般から資金調達ができる日本最大級のクラウドファンディングサービス。日本酒や飲食店ジャンルにおけるプロジェクト数で業界最多の実績を持つ。リカー・イノベーションが掲げた目標金額は64万8000円だったが、掲載後わずか2日間で目標を達成した。

Makuakeでのプロジェクト
〈Makuake〉でのプロジェクト

辻本 最終的には300万円以上の資金が集まりましたが、保証金などの開業資金にはほとんど使っていません。主に支援していただいた人への招待券、割引券のほか、特別な商品(お酒)の購入資金として使いました。クラウドファンディングを使う目的は一般に2つあると考えられます。1つは店舗のオープン資金、開業資金にあてること。2つ目は店舗のプロモーションです。「KURAND SAKE MARKET」ではこの2つ目の目的に重きを置いていました。一般には流通していない小さな蔵元のおいしい日本酒を100種類集めて、3000円(税別)で飲み放題にするという「KURAND SAKE MARKET」のプロジェクトはWeb上で大きな話題になり、SNSに対して拡散力のあるWebメディアさんが、こぞって取材に来てくれました。SNSで情報が急速に広がったので、最後はテレビ局も取材に来ていただき、オープン前から「話題の店」として取り上げてくれました。おかげで、オープンから約3カ月間は予約がまったく取れない状態が続きました。お店の前に行列ができるのですが、時間無制限なので、いつ頃、入店できるかというご案内もできない状態でした。

 

「KURAND SAKE MARKET」池袋店はビル4階。広さは30坪弱、50席(16年9月からスツール椅子を導入)の規模だが、平日の夕方17時から23時まで切れ目なく満席が続いたという。土日には、これに日中からの営業時間がプラスされた。しかも、驚くのは「飲み放題」「日本酒」「立ち飲み」という従来のイメージを大きく裏切る、そして辻本氏らの狙い通りの客層だ。SNS世代の20~30代が70~80%を占め、オープン当初は6割が女性だったという。最近は少し落ち着いてきて、男女比は半々になったが、若い女性のグループ客が依然として目立つ。入店後も、手にスタンプを押してもらって自由に外出可能なので、酒の肴の買い足しもできる。SNS上では、周辺のどの店で何を買って、日本酒の肴にすべきかという情報まで多数、飛び交っている。

KURAND SAKE MARKET新宿店。金曜夜は予約で満席

「KURAND SAKE MARKET」は池袋店に引き続き、上野店(旧:浅草店)、渋谷店、新宿店、大宮店、船橋店と現在までに6店舗を連続して出店。同じように「飲み比べ業態」ながら、日本酒以外の酒類をメインにした「横展開」の姉妹店も相次いで立ち上げた。100種類の梅酒・果実酒飲み放題の「SHUGAR MARKET」を3店舗(渋谷・新宿・福岡)、焼酎約100種類と本格サワー・焼酎カクテル飲み放題の「HAVESPI」1店舗(新宿)と2コーナー(「KURAND SAKE MARKET」上野店・船橋店にコーナー設置)だ。上野、船橋では、3000円(税別)の同一料金で「KURAND SAKE MARKET」と「HAVESPI」の間を自由に行き来でき、日本酒と焼酎が合わせて約200種類、飲み放題となる。新宿にいたっては、同じビルの3~5階に、「KURAND SAKE MARKET」「SHUGARMARKET」「HAVESPI」の3店舗が立地しているので、3000円(税別)の同一料金で約300種類が飲み放題だ。

 

辻本 新宿の3店舗は当初、それぞれ別料金で運営していましたが、今年1月から、1店舗分の料金3000円(税別)で3店舗とも回遊できるようにしました。「KURAND SAKE MARKET」と「SHUGAR MARKET」は平日は予約なしでも何とか入れますが、週末の金曜・土曜は予約さえも取りづらい状態です。その場合は、焼酎の「HAVESPI」に予約席を確保してから、「KURAND SAKE MARKET」と「SHUGAR MARKET」を回遊し、それぞれの階のお酒を楽しんでもらうようにご案内しています。相乗効果が期待できます。